児童劇と富士山と青春!(その36)


~雑色駅前将棋サロンホーム~

ー劇団やまびことちいちゃんー (その3)

長岡はウインドガラスの手前まで行き、
「今は交通も便利だと思います。路線バス一本で来られるのでは?」
「そうかしら。それに養護施設の場合、生徒二十人に先生一人では危険すぎるし、そんな引率、普通ないわ」
「生徒たちを見ると、車椅子の子供や一人では何もできないほど、重症の生徒はいないみたいです。症状が軽度の子供ばかりで手間がかからないから、」
と言いかけると、津田は長岡の言葉を遮り、「分かりました」と言い、不満そうな表情を見せた。
暫くすると一ベルが鳴り、トランシーバーに受信音が入る。
「長岡、ロビーのお客は捌けたか?」
浦部は、下手袖から入りの悪い客席を見回して悪口を言った。長岡は、
「お前、分かっているだろう。前売り五十二枚、当日売り八枚、招待三十四枚だ。全部で九十四人、売上合計十万八千円だ。ハハハハ参ったか」とやけくそに言った。
「悪い悪い。でも九十四人か、・・・・しょうがないね。皆も昨日で全て出し切ったって言うのか、疲れが出て調子が悪そうだ」
長岡はトランシーバーを持ち換えて、
「お前らそれでもプロか、俺は昨日と今日、同じギャラ払うんだぞ!少しはピシッとしろよ、ピシッと」
「ごめんごめん。あまりにも落差がありすぎて・・・・。まあ、ロビーが暇なら舞台でも観てろよ。昨日は観てないだろう」
「ああ、そうだな。もう浦部の白雪姫は観られないよな、価値あるよ」
と言ってトランシーバーをOFFにした。
ロビーは津田さんに任せて、本ベル前に一番後の座席に座った。百人足らずのお客が千席ある座席の中央に集まっていた。
余裕のある空間に、長岡は体を伸ばし、この興行の失敗を振り返った。以前には、この程度の入りは何度も経験している。責任はあるが、それが自分に降りかかることは無かった。今回は、興行がそのまま自分に降りかかる。でも、甲府市の成功が今日の失敗を消している。気持ちに余裕があるものの、何か引っかかる。それは当然、富士市での動機である。
富士市での公演は何も意味がなかった。あれだけ浦部や津田さん、皆に迷惑かけてまで公演したのは、勿論、奇跡を信じて、幻の養護施設とちいちゃんの幻想だった。前の方に座っている養護施設の女の先生と生徒たちは、勘違い以外の何ものでもない。勿論奇跡など、小説や映画の中だけの話だ。・・・・ただ、現実に無いものを信じたい。と思いながらも養護施設の生徒を見ていると、津田さんが言うように不思議な空気は感じる。お互い話もしないし笑いもしない。ただ、緞帳の閉まった舞台を見つめているように見える?女の先生も、一番端でジッと座って動かない・・・・。まさか、そんなこと無いよ。
本ベルが鳴り、客電が落ちオープニングの音楽が流れた。緞帳が上がると、客席が静かなせいか、だんだん瞼が重くなり、ゆったりとした座席の中に体が沈んで行くのが分かる。
長岡の周りにはお客がいないはずだが、耳元で話し声が聞こえる。
「家の子供にも見せてあげたいけど、なかなか子供向けの劇は観る機会ないのよ」
「そうね。富士市に来るのは、年に一、二回かしら・・・・今回は白雪姫よ」
「これだけ会場いっぱいお客も入れば、なかなか座席券も取れないものだわ」
「なにせ、富士市の新しい会館だもの。今までの富士吉原会館じゃ・・・・」
長岡は、この人たちは、いったい何を話しているのか?こんな殺風景な会場にと思って、フッと目を開けると、いつの間にか客席はいっぱいになっていた。
たくさんのお客が期待するざわめきの中で、ぬいぐるみ劇が始まった。
今は、昭和四十一年四月。富士市に、新しい照明設備の付いた文化会館。こけら落としで、劇団やまびこが真っ先に公演していた。
長岡はビックリして、会場全体を見渡した。お客の熱気を肌で感じ、ボー然としていると、後の通路にス~ッと女の子が立ち止まった。
一瞬ゾクッとしたが、振り向かなくても誰だか分かった。長岡は舞台を観ながら、
「ちいちゃん、約束は守ったぞ。お兄ちゃんは本当に苦しい思いをして、この文化会館で白雪姫の公演を実現させた」
と言ったが、会場の盛り上がりの中、ちいちゃんの声はかき消された。
聞こえないと思った瞬間、小さな腕が肩から首に回り、耳元で、子供の声だが低い声で、
「ちいちゃん嬉しい。約束守ってくれた。でも、・・・・でも、でもちいちゃんは白雪姫観ることが出来ないの」
と悲しそうに告げた。長岡は、自分の肩にある小さな腕を、そっと撫でた。
「何言っているんだ。今、目の前に白雪姫いるじゃないか、もうじき、ちいちゃんの大好きな小人も出て来るよ」
ちいちゃんは、長岡の肩に抱きつき甘えながら、
「でも、でも、ちいちゃんは観れないの。観れないの」
と泣き出して言った。長岡は、小さな手を握りながら目を潤ませた。舞台が見えなくなり、暫く意識の無い時間があった。
ハッと目が覚めると、今いるのは古い市民会館だった。少ないお客の囁きが耳についた。
夢なのかと思った。

続く。


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~今日の一言~

今週末から天気が悪くなるそうな。じめじめうっとうしい季節でもないのに。
うっとうしいのは選挙だけにしてくれ!秋晴れの日々が待ち遠しい。
プロフィール

長澤席主

Author:長澤席主
他人を思いやれてこそ自立
傲慢で配慮がないのは孤立

名言カレンダー10月号より

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